福祉職場で広がる多様な働きかた「介護助手」<特別支援学校卒業生の挑戦>
2025.05.09 掲載
福祉・介護の現場では、掃除や洗濯、シーツ交換など身体介護以外の周辺業務を担う「介護助手」という働きかたがあります。
「介護助手」は、働きやすい時間や日数に配慮してあるため、元気高齢者や主婦、学生アルバイトなど多様な人々の就労の場として注目されています。「介護助手」の他に、「ケアパートナー」や「介護施設のお手伝いさん」など呼びかたは様々です。
今回は、介護助手として、あぶと健生苑(けんせいえん)で働いている特別支援学校卒業生の黒田南瑠(なる)さん・大岡早紀さん・岡本和之さんの3人についてご紹介します。
あぶと健生苑とのご縁<実習を通じた交流>
広島県立沼隈特別支援学校(以下、沼隈特支)の平井久美子就職支援教員(以下、平井教員)は、卒業生の新たな就職先の開拓を考えていた時に、授業の一環である職場実習で、あぶと健生苑を訪れました。職員が優しく親しみやすい口調で、生徒の能力に応じた指導をし、それにこたえようと懸命に努力する生徒の様子を見て、生徒の新たな就労先として福祉施設に手ごたえを感じました。
さまざまな障害がある生徒が在籍する特別支援学校では、学校生活の中で、生徒には、お互い助け合うように指導をしています。平井教員は、日々おこなっている「助け合い精神」こそが、まさに福祉施設での仕事に繋がると思いました。初めて、あぶと健生苑で実習生として受け入れてもらったのが、当時高校3年生だった黒田さんでした。ここから、あぶと健生苑と沼隈特支の実習を通じた交流が始まります。
ピンチがチャンスに!<実習2日目での嬉しい出来事>
黒田さんは料理が好きだったので、調理場で実習を受けることになりました。自分から話をすることが苦手で、コミュニケーションをとることが難しい黒田さんに、どのように実習を受けてもらったらいいかとあぶと健生苑の中山照子施設長(以下、中山施設長)と平井教員が考えた結果、「次に何をしたらいいですか?」「これが終わりました」といった内容のお手製のカードを使って、職員とのコミュニケーションを図ることにしました。
そして、迎えた実習初日。黒田さんがお手製のカードを持ってくるのを忘れてしまったことが発覚。中山施設長がどうしようか…と思っていたところ、実習の2日目には、なんと、黒田さん自らが調理の職員たちに自分の名前を言うことができました。これには、職員一同ビックリ!!!カードを忘れたことが功を奏した結果となりました。
実習内容としては、野菜の洗浄や皮むき、調理道具や食器の洗浄など、何をどのようにしてもらうか、具体的に業務の内容を決めて、職員がついて一緒に業務を行いました。実習が終わった後に、中山施設長が「何が大変だった?」と黒田さんに聞いたら、「たまねぎの皮をむくのは良かったけど、にんじんと大根の皮をむくことが大変だった」と言われました。なんで大変だったのかな…と思ったところ、「にんじんと大根はむいても、むいても同じ色だから…」と言われ、そうだな!と気づかされたことがあったそうです。
その後、2回目の実習を経て、令和5年4月から採用され、特別養護老人ホームで勤務しています。あぶと健生苑では、バスを乗り継いで来る黒田さんが通勤しやすいように、バスの時間に合わせた勤務時間にするなど配慮されています。そのおかげもあって、黒田さんは職場に馴染むことができ、日々頑張っています。
「現在、採用から2年近く経過し、想定していた業務内容以上に頑張ってくれています。黒田さんの努力の成果で、できる仕事が一つずつ増えてきて、仕事の幅が大きく広がったおかげで、調理職員の負担が軽減されてきています」と中山施設長は話されます。

写真:黒田さんの野菜洗浄の様子
苦手だったシーツ交換…今では克服!!
黒田さんに続き、令和6年4月から採用になった大岡さんは、高校2年生と3年生の時の実習を経て現在、特別養護老人ホームで勤務しています。実習では、シーツ交換や居室の掃除、食事の盛り付けやトイレにパット類の補充をするなど多岐にわたって担当しました。
実習を終えた後、大岡さんは「シーツの三角折りと四角折りが難しかった」と話されました。施設では、シーツの頭側は三角折り、足側は四角折りと決まっていますが、今ではすっかりできるようになりました。 現在は、居室の洗面台、フロアの清掃、シーツ交換や洗濯畳みなどを担当しています。平日6時間勤務で、毎日電動自転車で頑張って通勤されています。

写真:大岡さんの洗面台清掃の様子
「あぶと健生苑で働きたいんです!」<面接会での出逢い>
あぶと健生苑で、特別支援学校の卒業生を初めて採用したのは、令和2年にさかのぼります。障害者を対象とした「ふれあい障害者合同面接会」で、あぶと健生苑のブースをめがけてやってきたのが岡本さんでした。「あぶと健生苑で働きたいんです!」の熱意から、すぐに面接が行われました。岡本さんは、特別支援学校を卒業後、自宅近くの介護施設に就職した経験があり、中途での採用となりました。
岡本さんのはじめの仕事内容は、短期入所生活介護事業所にて、シーツ交換や手すりの掃除、フロアの清掃でした。「この時間はこれをする」というように分かりやすく業務内容を伝え、また、各ユニットのリーダーと話して、最初は誰かと一緒に業務を行い、できたかどうかを確認していくことで進めていきました。週に5日、1日6時間で働いていましたが、今では1日7時間勤務に延長になりました。
「岡本さんが掃除するユニットは1番綺麗で、彼の熱心さがそれを物語っています。また、岡本さんは、利用者と関わることがすごく好きで、利用者からもとても頼りにされています。『岡本さんの姿が見えないけど…どこにいるの?』と声をかけてもらえるほど。利用者が岡本さんを必要としてくれているのです。今では、少しずつですが、シーツ交換や清掃などの周辺業務から、軽度の介護業務までできるようになってきました」と中山施設長は話されます。

写真:岡本さんのシーツ交換の様子
介護助手として大活躍!<大岡さんと岡本さんの想い>
日々、介護助手として頑張っている岡本さんと大岡さんに仕事に対しての思いを伺いました!
質問:介護施設で働こうと思ったのはなぜですか?
大岡さん:お年寄りが好きで、掃除も好きだからです。
岡本さん:中途採用で、前にも介護職をしていて、利用者さんと関わることが好きで、これからも続けたいなと思ったからです。
質問:毎日掃除をして、ユニットが綺麗になって利用者さんが喜んでくれるのを見てどうですか?
大岡さん:うれしいです!
岡本さん:うれしいです!利用者さんが「よく掃除してくれるね」「綺麗になってるね」と言ってくれるので、すごくうれしくなります。
質問:仕事をしてどうですか?
大岡さん:楽しいです!
岡本さん:楽しいです!しんどいこともあるけど、利用者さんが声をかけてくれるので、しんどいを乗り越えて、頑張ろうという気持ちが強いです!
質問:今後どのようになっていきたいですか?
大岡さん:これからも続けていきたいです!
岡本さん:勤務時間が6時間から7時間に延びて、これからも勤務時間を延ばしていきたいです。時間が延びて何ができるようになったの?と聞かれたときに何もないというのは嫌なので、できることがひとつでも増えていけるように、何ができるか、周りの人の仕事内容を見ながら考えていきたいなと思います。
あぶと健生苑が想う、介護助手の雇用
資格や経験のない人や高齢者等に、介護助手として周辺業務を担っていただいていることで、介護職員の負担が大きく軽減されています。
周辺業務であるシーツ交換など、介護職員が利用者から目を離して行わなければならず、その間に利用者が転倒することがあります。実際、当法人でも介護助手を雇用したことで、介護職員が専門的な業務に専念でき、利用者の転倒事故が減った現状があります。そのため、まず日々の業務を専門分野とそうでない分野にしっかり仕分けることが大切だと思います。
当法人では、特別支援学校の生徒を雇用する際には、実習を行なったうえで、面接を行い採用か否かを決めています。実習を終えた後には、本人や家族、特別支援学校の先生、障害者就労生活支援センター支援員、ハローワークなど関係者が集まり、学校から卒業後の生活への移行をスムーズにすることを目的として、「個別移行支援会議」を開きます。この会議では、特別支援学校の生徒がどういったところで、どういった内容の仕事をしているのか、みなさんに理解をしてもらい話し合いをもって、卒業後の進路へ繋げています。
令和7年度から、新たに掃除が大好きな沼隈特支の生徒の採用が決まりました。 岡本さんや黒田さんたちの業務の様子を見ていて、周辺業務から少しずつでも軽度の介護業務ができる、特別支援学校の卒業生が他にもいるのではないかと思います。こうした採用を法人の中で計画をして取り組んでいこうと思います。

写真:あぶと健生苑
「介護助手」として働いてみませんか?
今回、初めて「介護助手」という働きかたを知った人も多いのではないでしょうか。福祉施設・事業所で働くのは介護職などの専門職だけではありません。「介護助手」は、働きやすい時間や日数に配慮してあるため、福祉・介護分野が初めてで不安…という人でも、無理なく働くことができます。
また、就労のハードルをさげた働きかたのため、元気高齢者だけではなく、子育てがひと段落して仕事を始めたい人や学生アルバイト、そして特別支援学校等の卒業生など多様な人材にとって、働きやすい職種です。
広島県社会福祉協議会では、この「介護助手」という働きかたを広く知っていただき、就労先の確保に繋げていきたいと思います。人と人、人と社会が繋がり、一人ひとりが生きがいや役割をもって、助け合いながら暮らしていくことができるよう、市町の社会福祉協議会、行政および施設・事業所と一緒に「介護助手」の働きかたを引き続き、広めていきます。
お問合せ先
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