和紙ちぎり絵でひらく日中文化交流
2026.03.10 掲載
中国残留日本人孤児(中国帰国者1世)の岩井梅子(いわい・うめこ)さんが、NPO法人「虹橋(にじはし)の会」の理事長として活動を続けられています。「虹橋の会」は、広島県内や中国の諸都市で和紙ちぎり絵を広め、日中両国から出品された和紙ちぎり絵の作品展を開催するなど、日中友好のかけ橋として芸術文化交流を広げています。
和紙ちぎり絵とは、様々な色に染められた和紙を手でちぎり、台紙に貼り重ねて風景や静物の絵画を表現する手工芸です。和紙はその質感や色合い、繊維の毛羽立ちが一枚一枚微妙に異なるため、独特の風合いをもった作品になります。
「虹橋の会」のあゆみ
「虹橋の会」は、2018年までに中国14都市を8回訪問し、36の学校や機関で和紙ちぎり絵の講座を開催しています。小・中学校の生徒や教員、芸術系大学生、一般市民も含め、延べ6,300人以上が参加しました。また、日中両国の作品を出展する「日中和紙ちぎり絵展」を広島県内で9回開催しました。中でも、公益財団法人平山郁夫美術館(広島県尾道市)との共催による「平山郁夫作品模写・世界遺産を描く」展は、2020年から同美術館ロビーにおいて3回の開催を重ねています。
エソール広島での毎月の定期教室のほか、会員講師が地元公民館等でも講座を開いています。また、広島市内小・中学校での体験教室も毎年実施し、さらに定例の国際交流イベント(「国際フェスタ」・「重慶の日」等)の出展も、国籍を問わない参加者の人気を集めています。
これらの実績が評価され、広島ユネスコ協会からは「第17回広島ユネスコ活動奨励賞(2014年度)」、公益財団法人ヒロシマ平和創造基金からは「第19回国際交流奨励賞(2016年度)」が贈られています。
理事長 岩井梅子さんにインタビュー
岩井理事長に、日中文化交流にかける思いや今後の展望について、お話を伺いました。
プロフィール
中国大連に生まれ、中国人の養父母に育てられ、1996年に50歳で日本に帰国しましたが、言語や習慣の違いから苦労が続きました。その中で偶然出会った和紙ちぎり絵に魅了され、持ち前の熱心さで技術を習得し、学び始めて4年後には「全国和紙ちぎり絵サークル」認定講師の資格を取得しました。
2002年に「虹 日中文化交流会」を発足し、和紙ちぎり絵を中国へ紹介する活動を始め、2011年には、同会を発展させ特定非営利活動(NPO)法人虹橋の会を設立し、理事長として現在も精力的に活動を続けています。また、中国・四国中国帰国者支援・交流センター(以下、センター)では、和紙ちぎり絵と太極拳、2つの交流活動教室で講師を務めています。

写真:センターでの「和紙ちぎり絵教室」
”好き”が、力になる
幼い頃から、手を動かして何かを作ること、旧正月の飾り作りなどの手仕事が大好きでした。中国には、「剪紙(せんし)」という紙を細かく切り抜いて作る伝統芸術があり、切り絵も身近なものでした。寂しいときや悲しいときも、手仕事に夢中になると、辛さをすべて忘れてしまうことができました。
今は、自分が作るだけではなく他の人に教えたりするのも、全部好きです。大変なこともあるけれど、好きだから頑張ることができます。「虹橋の会」でも、一人だけではできないことも、みんなで協力し合って続けてきました。
和紙の魅力を伝え、伝統を守りたい
紙の発祥地は中国ですが、日本で独自に発展し和紙が確立されました。紙の祖先である中国に和紙を紹介し広めることは、育ててもらった中国への恩返しになると思っています。
和紙は、日本の貴重な伝統文化で、継承していく必要があります。きれいな水と、日本原生の植物、そして職人の技術、この三つの条件がそろって、独自の発展を遂げました。世界を見渡しても、この条件がそろうのは日本だけではないでしょうか。現在は、和紙を取り扱う業者の廃業も増え、世界に誇る伝統がすたれていくのではと心配しています。手のかかる作業は若い世代には人気がなく、このままでは技術が伝承されないかもしれません。なんとかして後世に伝えていきたいと願い、その使命感も自分の活動の原動力になっています。日本はもとより中国にも広めることで、あとに続く人が現れるのを期待しています。
「虹橋の会」の仲間との支え合い
「岩井さんは、“好き”“やる気”“根気”の三つの“き”を持っている」と日本の友人に言われたことがあります。「虹橋の会」のメンバーも、皆さんやる気にあふれているので、お互いに触発を受け高め合っていると感じます。会の参加者も高齢化していますが、「あなた(岩井さん)がそれだけ頑張っているから、自分たちも頑張れる」と言ってもらえます。運営資金は厳しい面がありますが、皆さんのボランティア精神に支えられています。和紙ちぎり絵の教室を閉じることになった日本人の先生から、「今後も続けてほしい」と、使わなかった教材をたくさん譲ってもらいました。ものだけでなく、思い・心を一緒に受け継ぎました。体力の続く限り、皆で励まし合って活動を続けていきたいです。
新たな展示会の開催に向けて
2025年9月に、日本人講師5人と同行して、中国4都市の訪問を予定していました。訪問先は、重慶市3校、杭州市・南京市・上海市各1校、計6校の学校で、合計200人の受講を見込んでいました。学校関係者も歓迎して待ってくれており、各学校で配布するため、和紙ちぎり絵の教材を一人分ずつセットし、準備を整えていました。しかし出発の直前になって、先方の要請により、やむを得ず中止することとなりました。
この訪中が実現していれば、2026年に広島市と重慶市の友好都市提携40周年に合わせた展示会を開催する予定でしたが、残念ながら延期せざるを得ませんでした。
昨今の社会情勢により、2026年度内の訪中の見通しは立っていません。無事に行けるようになることを心から祈っています。会として長年続けて来た展示会なので、開催実現をめざし希望をもって臨みたいと思います。

写真:岩井さんの作品「葡萄の香り」

写真:岩井さんの作品「仏教伝来」(平山郁夫作品の和紙ちぎり絵模写)
今後の活動に期待して
「少しくらい、休みたいとか怠けたいと思うことは、ないのでしょうか?」と尋ねると、「ないです」と笑顔で即答されました。迷いのない眼差しからは、強い信念と矜持がうかがえました。帰国から30年、挫折を味わうことや心が折れそうになる瞬間もあったはずですが、後ろ向きな言葉を口にされることはありませんでした。困難に挑戦する勇気と情熱に、多くの応援者が集まり今に至っています。
思いがけず中国での教室開催は中止となったものの、岩井さんと「虹橋の会」の活動は、いずれ実を結ぶことでしょう。中国の都市部では急速なIT化が進み、生活のあらゆる場面がデジタル化されていると言われています。和紙ちぎり絵は、日本文化を知るだけでなく、素材に触れ自ら手を動かして形作るという身体感覚によって、リアルな体験価値を生みます。また、芸術や文化、教育という次元での心と心の交流は、地味で目立たなくとも、人間同士の深いつながりとして続いていくものと期待します。
和紙を用いた工芸品は他にも種類がありますが、ちぎり絵は、自由に和紙をちぎって貼り付けることで短時間でも作品が形となり、初心者にも親しみやすいものです。センターの毎月の和紙ちぎり絵教室も、開講から年を重ね、多くの中国帰国者が作品づくりを楽しんできました。
これまでの和紙ちぎり絵展はセンターも共催し、多くの来場者を迎えました。センター教室参加者の作品を出展するほか、広報や各種原稿校正に協力しています。引き続き、岩井さんと「虹橋の会」の活動を後押ししていきます。

写真:センターでの「和紙ちぎり絵教室」受講生と
関連サイト
- 特定非営利活動法人虹橋の会 公式サイト(別タブで開きます)
- 中国残留邦人等の証言映像 運命の軌跡(厚生労働省公式YouTube)<家族への思いを胸に 夢を追い続ける今>(別タブで開きます)
- 中国残留邦人の歩んできた人生 岩井梅子さん「二つの祖国で過ごした半生」(福祉ひろしま2020年9月号)ページへ
お問合せ先
中国・四国中国帰国者支援・交流センター
所在地:〒732-0816 広島市南区比治山本町12-2 県社会福祉会館5階
電話:082-250-0210
ファクス:082-254-2464
受付時間:平日・土日(下記を除く)8時30分~17時30分
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